「日本人成人男性の身長は平均171cm、標準偏差6cm」——こう聞いたとき、170〜180cmの人が何%いるか、分かりますか? 正規分布 を知っていれば、それを計算することができます。
正規分布は統計学の中心に位置する確率分布で、自然界・社会現象の多くに現れます。この章では正規分布の形・面積の法則・標準化・中心極限定理まで、図解でしっかり理解しましょう。
7.1 正規分布とは何か
正規分布(Normal Distribution) は、平均 μ(ミュー)と標準偏差 σ(シグマ)の2つのパラメータで決まる連続確率分布です。グラフは 左右対称の釣り鐘型(ベルカーブ) になります。
確率密度関数:
:平均(分布の中心位置)、:標準偏差(分布の広がり)
正規分布の主な性質は次のとおりです。
| 性質 | 内容 |
|---|---|
| 左右対称 | 平均 μ を中心に完全に対称 |
| 最頻値 = 中央値 = 平均 | すべて μ に一致 |
| σ が小さい | 山が高く細い(データが平均付近に集中) |
| σ が大きい | 山が低く広い(データが広範囲に散らばる) |
| 面積の合計 | 曲線の下の面積 = 1(全確率) |
正規分布が現れる身近な例として、身長・体重・試験の点数・測定誤差などがあります。
正規分布に「ならない」データもある
一方で、すべてのデータが正規分布に従うわけではありません。代表例が 年収 です。年収はマイナスの値がなく、一部の高所得者が右側に長い裾を作るため、右に裾が長い非対称な分布 になります。ほかにも、SNSのフォロワー数や都市の人口など「一部が極端に大きい値を取るデータ」は正規分布になりません。
「左右対称にばらつく理由があるか(自然な個体差・誤差か)」が、正規分布とみなせるかどうかの直感的な目安になります。
7.2 68-95-99.7ルール
正規分布には、標準偏差を使って確率を素早く求められる 68-95-99.7ルール があります。
| 範囲 | 含まれる割合 | 身長の例(μ=171cm, σ=6cm) |
|---|---|---|
| μ ± 1σ | 約68.3% | 165〜177cm |
| μ ± 2σ | 約95.4% | 159〜183cm |
| μ ± 3σ | 約99.7% | 153〜189cm |

たとえば「身長が183cm以上の人は何%?」という問いには、μ+2σ=183cmより右の面積が全体の (100−95.4)÷2 = 約2.3% とすぐにわかります。
7.3 標準化とz得点
異なる正規分布を比較するときに使うのが 標準化(Standardization) です。任意の正規分布 N(μ, σ²) を 標準正規分布 N(0, 1)(平均0・標準偏差1)に変換します。
z得点は平均から標準偏差何個分離れているかを表します。即ち、z = 0:平均値ちょうど、z = +1:平均より1σ上、z = -2:平均より2σ下といえます。
z得点の活用例:英語と数学のテスト比較
Aさんが英語80点、数学65点を取ったとします。どちらが相対的に優秀だったでしょうか?
数学のz得点の方が高い = 数学の方が相対的に優秀!
点数では英語が高く見えますが、z得点に直すと数学の方がクラス内での位置が高いことがわかります。z得点は単位や平均の異なるデータを同じ基準で比べるために使います。
偏差値の正体はz得点だった
実は、日本でおなじみの 偏差値 はz得点を変換したものです。
| Z得点 | 偏差値 | 上位からの位置(正規分布のとき) |
|---|---|---|
| -2.0 | 30 | 下位 約2.3% |
| -1.0 | 40 | 下位 約15.9% |
| 0.0 | 50 | ちょうど真ん中 |
| +1.0 | 60 | 上位 約15.9% |
| +2.0 | 70 | 上位 約2.3% |
先ほどのAさんの数学(z = +1.875)を偏差値に直すと 50 + 10 × 1.875 = 偏差値 68.8。「偏差値70はすごい」と言われるのは、正規分布なら上位約2.3%に入ることを意味するからです。
7.4 標準正規分布表(z表)の見方・使い方
±1σ・±2σ以外の中途半端な位置の確率は、標準正規分布表(z表) で調べます。z表は「z得点に対して、その値以下(または以上)になる確率」をまとめた表で、統計の教科書の巻末に必ず載っています。主要な値を抜粋します。
| Z得点 | P(Z ≤ z):z以下の割合 | P(Z ≥ z):z以上の割合 |
|---|---|---|
| 0.5 | 0.6915 | 0.3085 |
| 1.0 | 0.8413 | 0.1587 |
| 1.5 | 0.9332 | 0.0668 |
| 1.96 | 0.9750 | 0.0250 |
| 2.0 | 0.9772 | 0.0228 |
| 2.5 | 0.9938 | 0.0062 |
| 3.0 | 0.9987 | 0.0013 |
例題:身長180cm以上の人は何%?
μ = 171cm、σ = 6cm のとき、180cmのz得点は z = (180 − 171) ÷ 6 = 1.5。z表の P(Z ≥ 1.5) = 0.0668 なので、180cm以上の人は 約6.7% とわかります。
手順はいつも同じです:① z得点に変換 → ② z表で確率を読む。なお、表中の z = 1.96(両側で5%)は、後の章で学ぶ95%信頼区間や仮説検定で繰り返し登場する重要な値です。
7.5 中心極限定理 — なぜ正規分布は至るところに現れるのか
中心極限定理(Central Limit Theorem) は、統計学で最も重要な定理の一つです。
📌 中心極限定理:どんな形の分布でも、そこから無作為に n 個のサンプルを取って平均を計算する操作を繰り返すと、n が大きくなるにつれ、標本平均の分布は正規分布に近づく。
母集団の平均 、分散 のとき、サイズ n の標本平均は
平均は母集団と同じ 、分散は 倍(nが大きいほど平均のばらつきが小さくなる)

中心極限定理の重要性は、母集団の分布形に関係なく成り立つ点にあります。次章以降の区間推定・仮説検定でも、この定理が推測統計の土台を支えています。
7.6 Excelで正規分布の確率を計算する方法
実務ではz表を引かなくても、Excelの関数で一発で計算できます。よく使う4つの関数を紹介します。
| 関数 | 求まるもの | 入力例 |
|---|---|---|
| NORM.DIST(x, 平均, 標準偏差, TRUE) | x以下になる確率 | =NORM.DIST(180, 171, 6, TRUE) → 0.9332 |
| NORM.S.DIST(z, TRUE) | 標準正規分布でz以下になる確率 | =NORM.S.DIST(1.5, TRUE) → 0.9332 |
| NORM.INV(確率, 平均, 標準偏差) | 下から○%にあたる値(確率→値の逆引き) | =NORM.INV(0.975, 171, 6) → 182.8 |
| STANDARDIZE(x, 平均, 標準偏差) | z得点 | =STANDARDIZE(180, 171, 6) → 1.5 |
たとえば「身長180cm以上の割合」なら =1-NORM.DIST(180, 171, 6, TRUE) で 0.0668(約6.7%)。7.4節でz表から求めた値と一致します。
正規分布に関するよくある質問(FAQ)
Q1. なぜ「正規」分布と呼ばれるのですか?
英語の Normal Distribution(「普通の・標準的な分布」)の訳語です。自然界や社会の多くの現象がこの分布に従うため「normal(普通)」と名付けられました。研究者ガウスにちなんでガウス分布とも呼ばれます。
Q2. 正規分布と標準正規分布の違いは何ですか?
標準正規分布は、正規分布のうち平均0・標準偏差1のものです。どんな正規分布も標準化(z得点への変換)で標準正規分布に直せるため、確率の計算はすべて標準正規分布表1枚で済みます。
Q3. 偏差値と正規分布はどんな関係ですか?
偏差値はz得点を「偏差値 = 50 + 10z」で変換したものです。点数が正規分布に従うなら、偏差値60は上位約16%、偏差値70は上位約2.3%に相当します。
Q4. サンプルサイズ30以上なら正規分布とみなせるのはなぜですか?
中心極限定理により、標本平均の分布はnが大きいほど正規分布に近づきます。n = 30 は「多くの分布形でほぼ正規分布とみなせる」という経験的な実務の目安で、厳密な境界線ではありません。
Q5. 正規分布に従わないデータにはどんなものがありますか?
年収・SNSのフォロワー数・都市の人口など、一部が極端に大きい値を取るデータは右に裾が長い分布になり、正規分布には従いません。分析前にヒストグラムで形を確認する習慣をつけましょう。
この章の用語まとめ
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 正規分布 N(μ, σ²) | 平均μ・標準偏差σの左右対称な釣り鐘型の連続確率分布 |
| 68-95-99.7ルール | 正規分布で±1σ/±2σ/±3σ内にそれぞれ68.3%/95.4%/99.7%が含まれる |
| 標準化 | データを z = (x−μ)/σ に変換して平均0・標準偏差1の標準正規分布に変える操作 |
| z得点 (標準化得点) | 標準化後の値。平均から何σ離れているかを示す |
| 標準正規分布 N(0,1) | 平均0・標準偏差1の正規分布。z表(標準正規分布表)で確率を読み取れる |
| 中心極限定理 | サンプルサイズが大きくなるにつれ、標本平均の分布が正規分布に近づく定理 |
| 標本平均の標準誤差 | σ/√n。nが大きいほど標本平均のばらつきは小さくなる |
次章では、母集団全体を調べる代わりに 標本から母集団を推測する「推測統計」に入ります。無作為抽出・標本分布・大数の法則など、この章の正規分布と中心極限定理を土台として理解していきましょう。
▶ 次章:第8章 標本と母集団 — 推測統計の第一歩
▶ 前章:第6章 確率分布入門 — 二項分布・ポアソン分布
▶ 復習:第4章 分散と標準偏差


コメント