「新薬は本当に効果があるのか」「男女で平均賃金に差があるのか」——こうした主張の正しさをデータを使って統計的に考察する方法が 仮説検定(Hypothesis Testing) です。
この章では、仮説検定の基本的な考え方から、p値・有意水準の正しい解釈、5ステップの検定手順、そして2種類の過誤(偽陽性・偽陰性)まで、図解とともに丁寧に解説します。
11.1 仮説検定とは何か?
仮説検定とは、「本当に差がある」のかをデータで判断する方法です。コインを10回投げて8回表が出たとき、それは「コインが歪んでいる証拠」でしょうか、それとも「ただの偶然」でしょうか?こうした問いに対して確率的な答えを出すのが仮説検定です。
仮説検定では2つの仮説を立て、データがどちらを支持するかを判断します。
| 仮説 | 記号 | 内容 | 戦略 |
|---|---|---|---|
| 帰無仮説 | H₀ | 「差がない・効果がない」という保守的な主張 | 棄却して H₁ を支持したい |
| 対立仮説 | H₁ | 「差がある・効果がある」という研究者の主張 | 証明したい内容 |
仮説検定は「H₀が正しいと仮定したとき、観測データがどのくらいの確率で発生しうるか」を評価します。その確率が十分小さければ、H₀を棄却して「H₁を支持する」と結論づけます。
11.2 帰無仮説と対立仮説の例
| 研究の問い | 帰無仮説 H₀ | 対立仮説 H₁ |
|---|---|---|
| 新薬に効果があるか | 新薬と偽薬の効果は同じ(μ₁=μ₂) | 新薬の効果の方が大きい(μ₁>μ₂) |
| コインは公平か | 表の出る確率は0.5(p=0.5) | 表の出る確率は0.5ではない(p≠0.5) |
| 男女で平均賃金に差があるか | 男女の平均賃金は同じ(μ男=μ女) | 男女の平均賃金は異なる(μ男≠μ女) |
対立仮説の向きによって「両側検定」と「片側検定」に分かれます。「差がある(≠)」は両側検定、「大きい(>)や小さい(<)」は片側検定です。
11.3 有意水準 α とは何か?
有意水準(α)とは、「帰無仮説が本当に正しいのに誤って棄却してしまう確率の上限」です。事前に決めておく閾値であり、 α = 0.05(5%) が使わることが多いです。
| 有意水準 | 意味 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| α = 0.10(10%) | やや緩い基準 →検出力大 | 見逃しを避けたい場面 例)探索的な研究 |
| α = 0.05(5%) | 中庸的 | 例)社会科学 |
| α = 0.01(1%) | 厳しい基準 →誤検出減 | 誤検出を避けたい場面 例)製造方法の変更(安全性) 「危険」を帰無仮説とする。 |
11.4 p値とは何か?
p値(p-value)とは、帰無仮説が真のとき、観測値以上に極端な結果が起こる確率です。p値が小さいほど「H₀のもとではこの結果は珍しい」ことを意味します。
| 判定 | 条件 | 結論 |
|---|---|---|
| ✅ 有意 | p < α | H₀を棄却 → 「有意差あり」(H₁を支持) |
| ❌ 非有意 | p ≥ α | H₀を棄却できない(H₀が正しい証明ではない) |
⚠️ よくある誤解:「p < 0.05 = 効果が大きい」ではありません。p値は効果の大きさを示しません。標本サイズが大きければ、ごくわずかな差でも有意になります。効果の大きさは「効果量(Cohen’s d など)」で別途評価しましょう。
11.5 仮説検定の流れ

例題:母平均の仮説検定
あるテストの全国平均得点は60点(μ₀=60)、母標準偏差σ=10点とされています。新しい教育方法でn=25名を指導したところ、標本平均=65点でした。有意水準5%で「新しい教育方法は得点を上げるか」を検定してください(片側検定)。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| Step 1:仮説設定 | H₀: μ = 60、H₁: μ > 60(片側) |
| Step 2:有意水準 | α = 0.05、棄却域 z > 1.645 |
| Step 3:検定統計量 | |
| Step 4:p値 | p = P(Z > 2.50) = 0.0062(約0.6%) |
| Step 5:結論 | p = 0.0062 < α = 0.05 → H₀を棄却。新しい教育方法は有意に得点を上げると判断 |
11.6 第一種の過誤と第二種の過誤とは何か?
仮説検定は確率的な判断であるため、「間違える可能性」があります。間違いには2種類あります。


| 過誤の種類 | 状況 | 確率 |
|---|---|---|
| 第一種の過誤 | H₀が真なのに棄却してしまう(誤検出) | = α(有意水準) |
| 第二種の過誤 | H₀が偽なのに棄却できない(見逃し) | = β |
| 検出力 | H₀が偽のときに正しく棄却できる確率 | = 1 − β |
α を小さくすると第一種の過誤は減りますが、第二種の過誤(β)が増えるというトレードオフがあります。トレードオフを解消するためには 標本サイズ n を増やす のが最も有効な対策です。
第11章のまとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 帰無仮説 H₀ | 棄却したい仮説。対立仮説 H₁ を支持するために設定 |
| 有意水準 α | 通常 0.05(5%)。H₀を誤って棄却する確率の上限 |
| p値 | H₀が真のとき、観測値以上に極端な結果が生じる確率。小さいほど「珍しい」 |
| 判定ルール | p < α → H₀棄却(有意差あり)。p ≥ α → 棄却できない |
| 第一種の過誤 | 真の H₀ を誤って棄却(偽陽性)。確率 = α |
| 第二種の過誤 | 偽の H₀ を棄却できない(偽陰性)。確率 = β。検出力 = 1−β |
次章では、2つの変数間の関係を数値で表す「相関と回帰」を学びます。
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