条件を最適化したい。温度・触媒量・時間を、それぞれ3水準ずつ振りたい。組み合わせを数えたら27通りになって、手が止まったことはないでしょうか。
私も同じところで止まりました。ここで使うのが 直交表 です。L9という表を使うと、この27回が9回で済みます。なぜ9回で足りるのかを、表の中身を見ながら説明します。
3因子3水準の実験、総当たりだと27回になる
このシリーズでは、最後まで同じ実験を例に使います。反応条件の最適化です。
| 因子 | 内容 | 水準 |
|---|---|---|
| A | 反応温度 | 60 / 80 / 100 ℃ |
| B | 触媒量 | 0.5 / 1.0 / 2.0 mol% |
| C | 反応時間 | 2 / 4 / 8 h |
測るのは収率(%)です。振りたい因子が3つ、それぞれ3水準。ここまでは、よくある設定だと思います。
なお、測る対象は収率でなくても構いません。純度でも、強度でも、粘度でも、数値で測れるものなら手順は同じです。因子のほうも、焼成温度・添加量・保持時間のように読み替えて読み進めてください。
問題はここからです。全部の組み合わせを試すと、3 × 3 × 3 で 27通り になります。
27回も実験をすると時間が掛かりすぎ、原料も無限にはありません。

では1つずつ振ればいいかというと、それも問題があります。
2因子を固定して1因子の水準を振る実験を3因子分実施すれば、実験回数は9回で済みますが、「触媒量が多いときは、100℃のほうがよかったかもしれない」という可能性を最初に捨ててしまいます。
直交表を用いればこの問題を解決できます。先に結論を書くと、この実験は 9回 で済みます。
直交表とは?L9(3⁴)の例で解説
直交表は、27通りの中から9通りを「偏りなく」選び出した表です。まず「偏りがない」の意味を押さえてから、実物の表を見ます。
直交性——「偏りがない」とは?
ここでいう偏りがない、というのがこの表のすべてです。正確に言うとこうなります。
表の どの2列を取り出しても、水準の組み合わせが 同じ回数ずつ 現れる。
例えば、温度と触媒量の各水準の9通りの組み合わせ、(60℃, 0.5mol%)、(60℃, 1.0mol%)、……が、すべて1回ずつ現れます。
(60℃, 0.5mol%)のだけ2回現れたり、逆に1回も出てこない、ということはありません。温度と反応時間で見ても、触媒量と反応時間で見ても同じです。
この「どの2因子を取っても均等」という性質を 直交性 と呼びます。
直交表は、偏りが出ないようにあらかじめ組み合わせが決めてある表だと思ってください。自分で作る必要はなく、選んで使うものです。

L9(3⁴)直交表
実際の表を見たほうが早いです。3水準の因子を扱うときに最初に使うのが L9(3⁴)です。

L9(3⁴)という名前の読み方
記号の読み方はこうです。
- L … 直交表であることを表す記号(ラテン方格に由来します)
- 9 … 行の数、つまり実験回数
- 3 … 各列に入る水準の数
- ⁴ … 列の数
つまりL9(3⁴)は、「9回の実験で、3水準の因子を最大4つまで扱える表」という意味です。9という数字が実験回数そのものなので、表の名前を見れば何回実験することになるかがすぐわかります。
●なぜ4列まで因子を設定できるのか?
自由度を計算したら分かります。
①実験回数で分かる自由度:9-1=8
→実験回数9回では、8自由度分の情報を評価できる。
②各因子における水準数の自由度:3-1=2
因子4つの場合の自由度:2×4=8
→4因子3水準で8自由度分を使い切る。
➡3因子で実験して残りの列で、実験のばらつきや交互作用を評価する場合もありますが、これらは別の記事で解説します。
実際の条件に読み替える
列名に因子を入れます。今回は、列1にA(反応温度)、列2にB(触媒量)、列3にC(反応時間)を置きます。列4は使いません。
表中の1・2・3は、水準を表しています。ここに具体的な数字を入れていきます。
| 実験No. | 反応温度 | 触媒量 | 反応時間 |
|---|---|---|---|
| 1 | 60 ℃ | 0.5 mol% | 2 h |
| 2 | 60 ℃ | 1.0 mol% | 4 h |
| 3 | 60 ℃ | 2.0 mol% | 8 h |
| 4 | 80 ℃ | 0.5 mol% | 4 h |
| 5 | 80 ℃ | 1.0 mol% | 8 h |
| 6 | 80 ℃ | 2.0 mol% | 2 h |
| 7 | 100 ℃ | 0.5 mol% | 8 h |
| 8 | 100 ℃ | 1.0 mol% | 2 h |
| 9 | 100 ℃ | 2.0 mol% | 4 h |
27回が9回、18回分減りました。この表をそのまま実験計画表として使えます。
なお、どの因子をどの列に置くかには考え方があります。ここでは「AからCを順に置く」で進めますが、理由は第4章で説明します。
なぜ9回で3因子を評価できるのか
ここがこの記事の中心です。9回しかやっていないのに、どうして3因子の効果がわかるのか。
まず温度が60℃の行(No.1・2・3)に着目します。(図2-4)
触媒量が0.5・1.0・2.0と1回ずつ、反応時間も2・4・8と1回ずつ入っています。つまり、この3回の中には触媒量の3水準も反応時間の3水準もまんべんなく含まれています。
同じことを80℃(No.4・5・6)と100℃(No.7・8・9)でも確かめてみてください。どちらも触媒量が0.5・1.0・2.0を1回ずつ、反応時間が2・4・8を1回ずつ含んでいます。

ここから何が言えるか。60℃の3回の収率を平均すると、その中では触媒量と反応時間の影響が均等に混ざっているため、互いに打ち消し合います。
3つの平均は「触媒量と反応時間の効き方が揃った状態」で比べられます。
そのため、触媒量と反応時間の影響を打ち消して、温度の影響を見ることができます。
同じことが触媒量でも反応時間でも成り立ちます。
「どの2列を取っても組み合わせが均等」という性質は、こういう形で効いてきます。9回という少ない回数で3因子を同時に評価できるのは、選び方が偏っていないからです。
L9直交表からエクセルで実験計画表を作成
L9を紙で眺めていても実験はできません。エクセルに落とします。ここではすでにあるL9を写して実験計画表の形にするところまでをやります。
水準番号を直接条件値に打ち直してもよいのですが、それだと水準を変えたくなったときに全部打ち直すことになります。水準表を分けておくと、そこだけ直せば表全体が更新されます。
以降の説明では下記テンプレートを使っています。
水準表(別枠に作る)
テンプレートに因子名と水準を入力する。

実験計画表
実験計画表にはchoose関数を用いており、直交表と水準を対応して反映してくれるようにしておきます。

水準を80℃から85℃に変えたくなったら、水準表を変更するだけで表全体が直ります。
結果欄は実験が終わったら収率を記入します。この形にしておくと、そのまま解析に持っていけます。
上から順にやると、実験の後半に起きた変化(原料ロットの切り替え、装置のコンディション)が温度の効果と区別できなくなります。実験順をどうするかは第7章で扱います。
直交表で分かること・分からないこと
道具の限界を先に知っておくと、使いどころを間違えません。
分かること
- 各因子が収率にどのくらい効いているか、その主効果の大きさの比較
- 3つの水準のうち、どれがよさそうか
- 因子では説明できない誤差(残差)の大きさを評価できる場合がある
分からないこと
- 交互作用。「触媒が多いときだけ高温が効く」といった、因子どうしの絡み合いです。L9のまま3因子を置くと、これは見えません。見たい場合は列の使い方を変える必要があります。(第5章)
- 水準と水準の間。60℃と80℃は試しますが、70℃の実測値はわかりません。最適な点をピンポイントで出したい場合は、追加実験や応答曲面法などを用います。(第10章)
- 因子が8個あるとき。L9には4つまでしか入りません。L9(3⁴)では3水準の因子を4つまでしか扱えません。因子が多い場合は、より大きな直交表を選ぶか、重要な因子を絞り込みます。(第6章)す。
- 「この差は偶然ではない」と言えるかどうか。平均を並べて大小はわかりますが、その差がばらつきの範囲内かどうかは別の判断が要ります。考え方は統計学入門の 第11章 仮説検定の基本 を見てください。

まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 実験回数 | 3因子3水準の総当たりは27回。L9(3⁴)なら 9回(18回削減) |
| 直交表とは | どの2列を取っても、水準の組み合わせが均等に現れる表 |
| 9回で足りる理由 | ある水準の行を集めると、他の因子が均等に混ざって打ち消し合うから |
| L9(3⁴)の記号 | 9は実験回数、3は水準数、4は列数。3水準の因子を最大4つまで置ける |
| 限界 | 交互作用・水準以外の点・多因子のスクリーニングは直交表だけでは扱えない |
次は、どの直交表を選べばいいのかという話になります。因子が2水準のとき、因子が5つあるとき、水準数が揃わないとき。表の種類と選び方は第3章で扱います。


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